
1年前の夏、静岡の大学に行くことが決まり僕は茨城から静岡に引っ越してきた。茨城ではブラックバス、ナマズの釣りばかりやっていた僕にとって静岡の海はとても新鮮だった。透明度の高い透き通った水、少し投げるだけで水深が10m以上もある急深のサーフ、夏には青物が入れ食いになり冬には鰤が回遊してくる海。
そんなフィールドで釣りができることに喜びを抑えきれず毎日釣りに通った。

静岡に来て少し経った頃、港で出会った同大学の友達が三保のサーフからクエを狙っていることを知り半信半疑で釣りについて行ってみることにした。
巨鯉用の竿にリールはシマノの8000番、PE6号にハリスは30号。今まで淡水の釣りばかりやっていた僕にとって異次元としか言いようがないタックルだった。

こんなに太いラインで魚が食ってくるのか。そう思っていると目の前で友達が巨大な魚をかけた。巨鯉用の竿がバットからしなり、体全体を使ってその引きを止めていた。しかし、魚はそれ以上のパワーを見せ、カケアガリに糸が擦れて三保の海へと逃げていった。
その風景を目の当たりにした僕はその日からこの釣りの虜になった。
次の日からはありあわせのタックルで夕方から朝まで毎日のようにサーフに通っていた。

クエ釣りのために大学の授業に出席し忘れ単位を半分以上落としている友達がいたが、それも納得のいくくらいクエという魚に魅了されていた。しかし、釣れるのはエイやウツボばかり。


当たりはあるものの針には掛からなかったり、掛かったとしても力負けするかカケアガリに糸が擦れて切れるかの二択だった。それでも時間があればサーフに通った。いつしかルアーをやりながら横でクエ竿を出したり、クエのあたりを待ちながら大学の課題をやっていたりした。
そんな生活が続いて一年が経った頃、彼女が友達と食事に行くと言い、数時間だけ釣りをすることができた。クエが釣れる期待はしていなかったが、しばらく大型の魚を釣っていなかったのでサメかエイでも釣れればと思いサーフに向かった。ポイントに到着するとメインタックルが絡まっていたので、先にライトタックルに豆アジを付けて投入。
その数分後、メインタックルの絡まりをほどいていると「ガシャ」と後ろから竿が倒れる音がした。慌てて振り向くと、今まで見たこともないようなスピードで竿が海底に引きずりこまれている。
その光景を目の当たりにした僕はなんの迷いもなく海に飛び込み、周りの人に白い目で見られながらもびしょ濡れになって竿を掴んだ。
今までの経験から、魚に主導権を譲ったら終わりだと思っていたので竿が折れる寸前まで力をかけて全力でリールを巻き続けた。「そんなに暴れている様子はない、ただ重い」なんの魚か全く検討が付かなかったが、びしょ濡れになった以上は絶対にこの魚は逃さないと思い一心不乱に魚を寄せた。
気づいた頃には魚がすでに手前まで来ており、魚のシルエットが目の前に浮かんできた。エイでもウツボでもない茶色いハタ系の魚、その魚の背中には白線が数本入っていた。その魚がクエだと分かった瞬間に全身に緊張が走り叫んだ「うお!!!まじか!!!!やべぇぇぇ!!!!!」一年間狙い続けても釣ることができなかった魚が今、目の前にいる。絶対に逃がせない。何がなんでも取ってやる。そう思いタックルが壊れる寸前まで力をかけて、クエを無理矢理浜に引きずり上げた。

やっと釣れた。長かった。この魚を釣るために丸一年。諦めずに狙い続けて良かった。
クエを持ち上げたその手は震えが止まらなくなり、手だけでなく全身が震え出した。
砂浜に横たわったクエはとても美しい体をしていて、三保の主のような存在感を放っていた。

クエの脳天を絞めようとナイフを刺そうとするが、クエは全身のトゲを逆立てて抵抗した。今から自分が締められるのが分かっているかのようだった。今までクエを釣るためにかかった苦労の分、感謝の気持ちを込めて脳天にナイフを突き刺した。
この魚は僕に大切なことを教えてくれた。
クエは本当に釣れない魚であると共に、どんな魚よりも価値のある魚なんだということを。
三人で1年間クエを狙い続けて釣れたのはこの1匹のみ。
釣りに行っても釣れないのが当たり前。
そのような釣りだからこそ1匹の価値が異常なほど上がるのだと思う。
そんな価値ある魚を釣りに、これからも僕は三保のサーフに向かう。
全身が震え上がるほどの1匹を求めて。

タックルデータ
ロッド Tailwalk saltyshape dash shorejigging
106MH
リール PENN battle ii 6000
ライン pe2.5号
ハリス ナイロン80lb
エサ 豆アジ
管理人コメント
まずは待望のクエ釣果、おめでとうございます!そして素敵な釣行記ありがとうございます。この記事は私、とても大好きです。編集しながら何度も手を止めて見入ってしまいました。
これは私の勝手な意見ですが、SNSでたまに見かけるクエ釣果、全部とは言いませんが事故釣果なのかなと思うものもあります。しかしこのクエはそうではない。1年以上狙い続け念願叶って仕留めた正真正銘、本命のクエです。情熱がとても伝わります。
クエのドラグ音は凄く甲高く、スピード感に溢れていて、きっと矢のように竿が海へ飛び込んで行ったのだろうと想像できます。あの瞬間の興奮はいつまでも忘れないでしょう。その爆発的な興奮こそがクエが釣り人にとって特別な魚である所以だと私は考えております。